やまもとが、泣いたところなんて、全然みたことがなくて、
いつも笑顔のやまもとが、泣くところなんて想像もできなくて、
だって彼は俺のヒーローだから、なんて思ってたんだけど、
「やまもと、」
「…… 、」
「 泣いて良いんだよ」
そんな彼に俺がなに偉そうに言ってるんだ、とか思いながら、それでも抱き締めた腕の力はまるで弱まらなかった。
*ひとつぶの*
「…あ、」
「あ?」
「あめだ…」
ぽつぽつと、ひとつぶひとつぶ、コンクリートの色が濡れて濃くなっていく。
それを足元を見つめながら、俺はただ動かないでいた(動けない、のほうが正しいのかもしれない)(けど、)
「ツナ?」
「… 、うん」
「うん?」
「うん」
なんだそれ、なんて小さく笑う山本も、それは同じみたいで、
ただ、俺のとなり、俺の手を包みながら、(やまもとの手は俺には大きすぎて)(手を繋ぐ、よりは、包まれるほうがお似合いだ、と)(いっつもこっそり思ってる)
ふたりで屋上の、フェンスの向こうの空を眺めてた。
「風邪ひいちまうぜ」
「そしたら堂々と学校休めるじゃん」
「したらオレと会えない」
「お見舞い来てくれないの?」
「行く」
即答した山本に思わず吹き出した。
なんだよ、来るんじゃん。なら、会えるんだから。
「……、 。」
去年の、今日。
山本がここから落ちたのは、今でもよく覚えてる。あの日がなかったら、俺たちの今はなかったから。
「なに考えてる?」
「…ほんと、やまもとはばかだなぁって」
「えー、ひでぇ」
ほんと、ばかだよ。
いっぱい良いものもってるくせに、俺なんか頼って、失敗して、俺引きとめようとして、ここから落ちて。
落ちきったら、もう笑ってて。
「…やまもと」
「ん?」
やっと、空から山本に視線を移すと、山本は既に俺のことを見てた。
ん?なんて笑いながら、俺が腕を伸ばせば背中を丸めてくれる。
背の高い山本が、一生懸命、俺の為に。
ごめん、背中痛いよね。
でも、俺いま山本の頭を抱き締めたいんだ。
俺の腕はひょろっちくて、包む、なんて全然似合わないけど
雨が、さらさらと降っている。
髪が、ちょっとだけ湿って、おとなしくなる。
あの日の空は、すごく高かったのに、
いまはこんなに近くにいる
「やまもと」
「 、」
やまもと、俺。俺ね、
やまもとの笑顔を守るより、
「大丈夫、」
やまもとの涙を、全部受け止めたいよ。
「 泣いていいんだよ」
俺の肩がひとつぶ、違う色で濡れた。
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24*6*29